美鶴の なひと。


アヤちゃんだったら良かったのかな?
いいや、最初から自分が書かれようなんて思ってもみなかった。
美鶴の なひとはアヤちゃんなんだろうと思っていた。


アヤちゃんでもなくて。
僕でもなくて。


カッちゃんだなんて。


―小村くんです。


 ―小村くんです。


美鶴の言葉がぐるぐると頭の中を反芻する。
何だろう。誰とも顔を会わせたくない。


やがて授業の終わりを告げるチャイムがなり終ると同時に、亘は一刻も早くこの場から消えてしまいたかった。
帰りの会を上の空で聞いて場を凌ぐ。


机の上にそのままの原稿用紙。


亘はそのままぐしゃりと掴んで空の鞄に放り込む。
見えなくなるように後から乱雑に教科書を詰め込んだ。


―作文なんてどうでもいい。


さよならの合唱と同時に、さっさと帰り支度を済ませて立ち上がる。
近付いてくる気配には顔を見ずに言った。


「僕、用事あるから」
「あっおう…」


伸ばしかけたカッちゃんの手はたちまち級友達に囲まれる。
芦川美鶴に小村克己という以外な組み合わせに皆興味深々なのだ。


「小村って芦川と面識あったっけ」
「うんにゃ よく遊んだりするぜ」
大体亘経由だけども。


しかしそれだけでは気が済まずに、なおも次々と質問を浴びせかける級友達を切ったのは美鶴だった。
悪いけど。抑揚のない声で美鶴はきっぱりと言う。


「今日は妹迎えに行かなきゃなんないから帰ってもいいかな?」
叔母が家を空ける日は妹が図書室で待っていて一緒に帰ることになっている。
 偉いよね、芦川くんて。
 あー私も芦川くんの妹になりたかった。
騒ぐ女子達が視線を戻すと、当の美鶴の姿はもうそこにはなかった。


「小村ぁ芦川は?」
「あ?アイツならとっくに帰ったぜ」







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